中学2年生に進級したある日のこと。
理科の授業で実験があり、理科実験室の前にクラスメイト全員が集合していた。先生が来て鍵を開けてくれるのを待っている。
そんな退屈な時間の中、女子が筆箱を落として中身が散らばってしまった。この女子をAさんと呼称する。
俺のすぐ傍で落としたこともあり、拾うのを手伝っていた。他に拾うのを手伝っている男子はいない。
俺と一緒に拾っているAさんは嬉しそうにしていた。
「ピーノスケ君って優しいよね」
え? そりゃ目の前で筆箱の中身をバラまけば誰でも拾うを思うけどな…
俺は「そうかなあ…」と適当に相槌を打った気がする。
その日を境にAさんが俺に話しかける頻度がグッと増えた。
先日の記事でも書いた通り他の女子からも話しかけられることもあるが、Aさんはそれとは違っていた。なんというか、親密になりたいという意思を感じた。
「俺に好意でもあるのかな…」
自己肯定感0の俺でもそう思うくらい積極的で、Aさんとの会話は楽しかった。
俺も自然とAさんを気にかけるようになっていったし、目で追い始めた。
しかし限度があった。他の生徒の目である。
一日中、楽しく素直に会話することが出来れば、どれほど楽しいか。と思ったが状況がそれを許さなかった。
今考えれば、状況など気にせず俺からどんどん話しかければ違う未来もあったのかもしれない。
俺はチキンだった。
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